April 2010

木ノ下智恵子「芸術の拡張機能と概念のリノベーション」

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ダムタイプ


芸術の拡張機能

美術・芸術が「アート」と呼ばれるようになって久しい現在、そのあり方もさまざまになった。ホワイトキューブでの従来型の展覧会に加え、社会のさまざまな側面にコミットするアートが台頭してきた。それはいずれも既存の文化装置(美術館やギャラリーや劇場)ではなく、都市空間や文脈にコミットした試みが多く、芸術の拡張機能を実感させる。そこで、今回の特集テーマ「都市空間とアート」に関する私見として、筆者の実践報告を踏まえて概説したい。

 
アートプロジェクトの地産地消

『新開地アートストリート(SAS)』は、まちづくりの一環として設置されたアートセンターを中心に、「地質調査→土地開拓→種まき・植樹→資産運用」という段階的テーマを5年に渡って展開した。ここでは、景観やモノではなく、人々の意識に緩やかな変化をもたらす、日常的なささやかな出来事を継続した。食の分野で用いられる「地産地消」という言葉があるが、文化も同様に地域内循環が必要だろう。客観的な視点による冷静な判断とバランス感覚によって文化を産み、育て、評価する「地産地評」が、埋もれたまちの魅力や日常生活の豊かさに気付くための重要なファクターだと考える。
参照URL=http://kavc.or.jp/art/sas/


封印された場の開放

「湊町アンダーグラウンドプロジェクト」は、総面積3000㎡に及ぶコンクリートの巨大地下空間を、建築家、アーティスト、哲学者、学生、技術者、サラリーマンなど、異なる領域・多世代の有志が、約1年に及ぶ協同を経て、「場」の可能性を探った。社会的には無意味で無駄な空間を開くには、消防法や各種法的な制約との交渉・契約といった、あらゆるリスクマネジメントが必要であった。だがしかし、その特異なプロセスそのものが、社会や制度を批判する、あるいは、既存の状態から隙間を見つけて七変化させる“アートの力”を探る機会となった。封印された土木空間を“アートとしての空間”あるいは“メディアとしての建築”に変容させることで、都市空間の新たな言説を実証したと言えるだろう。
参照URL=http://www.dnp.co.jp/artscape/exhibition/curator/kc_0310.html


近代産業遺産の美

「NAMURA ART MEETING '04〜'34」は、湾岸工業地帯にある造船所跡の私有地を芸術の実験場として活用する試みだ。広大な敷地とドック、実寸大の図面が描かれていた製図室など、造船所の遺構に魅了された、劇場プロデューサーや美術プロデューサー、アーティストが、所有者の尽力を得て始動。36時間連続する多種多様な対話プログラム、文化装置としてのリノベーション、造船所跡地という文脈を活用したアートプロジェクトなど、二年に一度のペースで継続中だ。湾岸の工場跡地の風景のポテンシャルを美的な空間装置として捉え、既存の文化施設とは異なる本拠の可能性をプレゼンテーションしている。
参照URL=http://www.namura.cc/art-meeting/


文化事業の研究開発

「アートエリアB1」は、都心の新駅を“コミュニケーション空間”として活用する試みであり、企業と大学とNPOの連携による事業だ。このスペースは、大学、美術館、ギャラリー、劇場、図書館などとは異なり、施設が示す目的を持たず、多様なアクティビティーが目に触れることが可能だ。哲学・アート・サイエンスなど主題に応じた対話プログラム(カフェプログラム)、シンポジウム、レクチャー、ダンスパフォーマンス、展覧会など、目的にあわせて場を設定している。これは、多目的が無目的ではなく、元来の駅のコンコースという場所性や文脈を拡大解釈し、利害の異なる組織体の連携による持続可能なコラボレーションモデルを模索する、文化事業の研究開発である。
参照URL=http://artarea-b1.jp/



加藤翼


概念のリノベーション

幼少の頃、高架下や路地裏といった何の用途も与えられずに忘れられた空間を自分達だけの秘密の場所として、大切にした記憶はないだろうか。大人にとって無意味で無駄な空間が、子供にとってこの上なく魅力的な存在として意識されるのは、お膳立てされていない状況に自分がどうやって関わっていくのか、少し危険を孕んだ禁じられた遊びの醍醐味が味わえるからだろう。ひょっとすると“アート”はそれを取り戻すことが可能な遊戯であり、社会や制度の本質を批判できる最良の領域なのかもしれない。


「六本木クロッシング2010」 メディアとしての展覧会

100年に1度と言われる金融危機下にある現在。これまでの経済の論理に翻弄されること無く、安易なコミュニケーションや地域振興のツールとして目的化されない、芸術の本質を見定め、本来の価値や存在意義を取り戻す、アートのメッセージ性を、展覧会のメディア性を信じたい。
そうした思いを託した展覧会「六本木クロッシング2010 芸術は可能か?明日に挑むアート」を開催する。3年に1回毎に開催される日本のアートの定点観測展「六本木クロッシング」の3回目を迎える今回は、森美術館の近藤健一、インディペンデント・キュレーターの窪田研二、私の3人で企画を共同した。サブタイトルに冠した「芸術は可能か?」という言葉は、アーティストグループ/ダムタイプのメンバーであった故・古橋悌二によって掲げられた命題だが、この愚直でありながら本質的な問いは、現在においても鮮明だ。
この問いを出発点に議論を深め、「社会への言及」「越境の創造力」「恊働の意義」「路上で生まれた表現」「新世代の美意識」という5つのテーマに基づいて、20組の作家を選定した。個別の作家性や作品世界の差異があるにせよ、いずれも、個人的な関心事項から端を発するも、ナイーヴな自己の内省活動やオタク的な趣味世界のリミックスではなく、時代や歴史を我が事として認識している。既知に疑問を抱き未知を受け入れる哲学と、規定の美醜とは異なる美意識を持ち、日常と乖離しない程度の芸術性を保ちながら、“私”から他者に、社会に、メッセージを発している。
ぜひ、その一つ一つに触れ、全体を通じて、余すところなく、受け止めて頂きたい。



コンタクトゴンゾ


木ノ下智恵子 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任講師。窪田研二、近藤健一とともに「六本木クロッシング 2010展」のキュレーターを務める


展覧会情報
六本木クロッシング 2010展:芸術は可能か? --明日に挑む日本のアート--
会期:2010年3月20日(土) - 7月4日(土)
会場:森美術館
(106-6150 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ 森タワー53F)
開館時間:10:00-22:00
(火曜日のみ17:00まで・3/27のみ6:00まで・5/4のみ22:00まで)
問い合わせ先:03-5777-8600
URL:www.mori.art.museum


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