February
2010
特集「設計プロセス論の現在」
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伊東豊雄「インタラクティブなプロセスを実現する意思」


伊東豊雄氏(撮影=彰国社写真部)
近年、伊東豊雄氏は構造家、セシル・バルモンド氏とコラボレーションし、またいくつかのコンペ案などでアルゴリズミック・デザインの考え方を取り入れるなど、設計プロセス論の水準でさまざまな試みを実践している。設計プロセスのイノヴェーションがもたらす現代建築の社会的パースペクティブとは何か、ここではサーペンタイン・ギャラリー・プロジェクト以降の事例をもとに、伊東氏のスタンスを伺うことにした。
聞き手=藤村龍至
セシル・バルモンドに触発されて
藤村:アルゴリズミック・デザインにどのような可能性を見ていらっしゃるのでしょうか。
伊東:サーペンタイン・ギャラリーのプロジェクトのとき、セシル・バルモンドが「正方形を回転する」というアルゴリズムを提案してきました。それがグリッド・パタンよりも構造的合理性があるという説明を受けたのです。後になってみればグリッド・パタンよりも多分鉄骨量は多いから、合理的か否かは必ずしも保証できないけれども、とても新鮮な印象がありました。「ランダムにラインを引く」というのは恣意的であるといいながら、我々は知らず知らずの内に既視のイメージを投入してしまっているのに対して、あるルールに基づいて線を引くと我々が想像もしていなかったパタンになって現れてくるのです。

サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2002
画像提供:伊東豊雄建築設計事務所
藤村:アルゴリズムが新鮮なパタンを描く装置であることは確かです。他方、現在の設計環境を少し引いてみると、1990年代後半からコンピューターの本格的な導入に伴って、例えば構造や温熱環境、あるいは日影など、様々な条件の解析をかなり精密に行えるようになってきました。デザイナーの立場からすれば、入力側のデザインの材料が増えてくるわけですが、その時に問題になってくるのはそれを出力側でどのように「統合」していくか、ということです。伊東さんはアルゴリズミック・デザインの統合側のプロセスに関してどのような可能性を感じていらっしゃるのでしょうか。
伊東:一つのモデルを恣意的に作って、そこから構造のシミュレーションが始まる、或いは温熱環境のシミュレーションが始まる、光のシミュレーションが始まる、さらには人々がそのモデルを使い始めるということもあるかもしれない。そうすると「ここはまずいんじゃないか」という問題がいくつも起こってくる。それに対応しながらモデルが修正されていく。そのような部分的な修正の連続で設計が進んで行くというイメージがありますね。この場合、建築家があまり統合するというイメージを持たなくてもいいのではないでしょうか。最初に或るモデルを提示して、そこから先は部分的な修正を連続させることによって建築家のエゴイズムを排除できるような気がするのです。
ずっとアルゴリズミック・デザインをやっていた
藤村:それはコンピューターを導入される以前からそういったバージョンアップ型の設計プロセスのイメージをお持ちだったとのでしょうか。
伊東:そうですね。自分が建築をスタートした時点からそういう考え方を継続してきたような気がしていて、それは多分菊竹さんに教わったやり方なんじゃないかなあ。菊竹さんもなにか一つのモデルを作って、それを作っては壊し、作っては壊し、そこからあるとき突然進化するのを待っていたような気がします。
藤村:「せんだいメディアテーク(2001)」の設計プロセスを雑誌で拝見した時に興味深かったのは、コンペ案のときのシングルラインのプランが、実施設計が進むにつれて徐々に濃くなっていくプロセスのイメージがクリアに表れていることでした。「せんだい」を担当されていたヨコミゾマコトさんもその後「富弘美術館(2005)」を設計された際に、50m角のプランにいろいろな条件が加わったり市民の方の要望が加わったりするたびにサークル(円)がうごめきながらそれらを読み込んでいって、だんだん濃密なプランに進化するイメージを出されていました。狭義の意味でのアルゴリズミック・デザインはコンピューター・プログラムに従って単純なルールを反復していくというものですが、伊東さんが以前からおやりになっておられるそうしたバージョンアップ型の設計プロセス像もまた、広義のアルゴリズミック・デザインとして捉え直せることができるのではないかと思いますがいかがしょうか。

多摩美術大学図書館(2007) 撮影:石黒写真研究所
画像提供:伊東豊雄建築設計事務所
伊東:なるほどね。確かにそうかもしれません。アルゴリズムといえるかどうかはともかくとして、いつも何らかの「ルールを設定したい」と思っているんです。「カリフォルニア大学 バークレー美術館/パシフィック・フィルム・アーカイブ(計画中)」だったらまっすぐなグリッドをまず切っておいて、コーナーのところにカーブを入れながら空間を連続させていく。「台中メトロポリタンオペラハウス(計画中)」*1でもイメージモデルは早々に描けたのですが、そこにルールを入れ込みたいために試行錯誤を繰り返していて、ルールが発見されることによって構造のシステムも同時に発見された。「多摩美術大学図書館(2007)」も、カーブする曲線とアーチの列というルールを適用してからはかなり安心してそれを洗練していく事が出来る。そういう作業を「システム」と呼んだらいいのか、「ルール」と呼んだらいいのか、「秩序」と呼んだらいいのか、ずっと試行錯誤していますが、それが一貫しているというのは確かにおっしゃる通りだと思います。
藤村:googleの検索エンジンのシステムなども、google自体が人工知能的にすごく高度なアルゴリズムを設定して検索をしているのではなくて、「人は面白いと思うページにリンクを貼る」という習性をただ単に利用して単純集計するという、人の動きにごく単純なルールを与えることで構成されているということが指摘されています。設計の様々な与条件の束のなかにいくつかのルールを設定して全体を統合していくプロセスのイメージは、そういう情報社会論的な解釈と方法論を共有しているという印象を持ちます。
伊東:なるほど。まあ、基本的に建築というのはグリッドを用いればほとんど自動的に出来るわけですよね。ミースなんか全ての建築をグリッドで作ったわけだから。ただ、「多摩美」のように全部曲線にしても、何かルールを作っておくとどんな要望が出てきてもグリッドと同じように対応はできるし、相手の言う事を相当受け入れても大丈夫だという気がするんですね。結果的に2000年以降のプロジェクトは自分でも以前より自由になった気がするし、大胆な事をやっているようだけれども、商業建築でも公共建築でも、クライアントからは満足されているという印象はありますね。むしろスタティックな形にまとめようとしていた以前のプロジェクトの方が無理をしていたかも知れません。

台中メトロポリタンオペラハウス(実施設計中) *1の構造スタディ・モデル
画像提供:伊東豊雄建築設計事務所
インタラクティブなプロセス
藤村:ちょうど今から10年前の2000年頃、熊本県の苓北町で阿部仁史さんと小野田泰明さんが「苓北町町民ホール(1999)」を設計された際に、されていた議論です。阿部さんたちは、そこでの実践を元に建築家像を更新したいということを主張されていました。阿部さんたちの主張は先ほどの「抽象」のように建築のあり方について考える、という問題とは異なり、より設計プロセスそのものに踏み込んだ問題ですが、そのような地域との対話をもとに案を構築していく設計プロセス像についてはどのように考えていらっしゃいますか。
伊東:対話というときに、住民対設計者というような、互いに向き合うような関係ではなくて、構造や設備と同じような関係で、沢山の他者とのコミュニケーションを経ながら設計のプロセスが進んでいくと考えたいんですね。そこでは設計、施工という区別すらもない位にひとつのプロセスに統合してしまいたい。その状態が実現できれば最初から建築を使っている、ということもできるし、使いながら設計している、ということもできる。そうしたら今より遥かに面白い建築ができるだろうし、実際の都市空間ではそんなことはあたり前の話なので、そういう状態を建築レベルまで浸透させていくと、もっと都市的で多様性を持った建築を作れるのではないかと思うんです。
藤村:そこでの建築家の役割はどのように描いていらっしゃいますか。
伊東:逆説的だけれども、建築家がかつてのように形をつくる人という考え方から解放するためにこそ、建築家の存在が重要なのではないでしょうか。
藤村:それはコミュニケーションの密度をもたらすためですか。
伊東:ある意思が存在しながら、なおかつそれによって全てがコントロールされてきっていないという、緊張した関係で建築を成立させるためですね。そのためにも、設計のプロセスはよりインタラクティブでありたいし、それから考えられるデザイン自体ももっと相対的なものでなくてはならない。
藤村:なるほど。それは冒頭で伺った、最初にルールだけを設定して、あとは他者に開放していくアルゴリズミックな設計プロセス像と重なりますね。
伊東:そうですね。それを追求していくと、本当に建築とは一体なんなんだろうという問いからもう一度問い直さなければならなくなるはずなんです。今たまたま伊東塾という私塾を作ろうとしていて、そこではそういう問題について、自分自身がまずじっくり考えてみようと思っているのです。
2009年12月14日 伊東豊雄建築設計事務所にて
*1 The Taichung Metropolitan Opera House is built by Taichung City Goverment, Republic of China (Taiwan).