August 2010

市川紘司 「生命のような建築」の平明性について考える

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Tree-ness House(石井邸) 出典:akihisa hirata architecture office HP

1.「〜のような建築」というコンセプト

平田晃久には『animated 生命のような建築へ』(*1)というモノグラフ(的著作)があるが、そこで彼は「人間の営みもまた自然の一部であるという考え方のさきにある建築、anima[生気]にあふれる、animal[動物]としての人間にうったえかける、animated[生命を与えられた]な建築をつくりたい」と述べる。ひとまずこれをマニフェストと解釈して、平田晃久という建築家から、建築にとっての「生命(論)」の持つ可能性を考えていきたい。
 平田のこの「生命のような建築」というコンセプトにも見られる「〜のような建築」という言い回しは、社会学者南後由和が指摘するとおり、石上純也などゼロ年代に台頭した新たな世代の建築家に特徴的に使われるものである。南後は『状態としての建築ー際の操作性』(*2)において、「〜のような建築」の特徴をこのように述べている。「接続すべき対象は周辺環境やコンテクストというよりは、物語や心象風景」が多く、その点はいわゆる「セカイ系」と通じるところがある、しかし「のような」で結ばれる「〜」と「建築」の、その間に生じる断絶=余白は「多様な現象や想像を充満させ」、「建築の創造をドライヴさせていく」点で可能性があるといえる。
 「〜のような建築」を理解する補助線としては、同じくゼロ年代の建築ジャーナリズムを支えた建築評論家五十嵐太郎に特徴的に見られる「建築と〜」という思考が挙げられる。植物や映画など、ここで「〜」に挿入される内容は様々だが、ひとまず建築の領域を拡張しようとする態度は明快だ。
 「〜のような建築」にも近しい意識を感じられないだろうか。つまり、「建築」そのものについて問うことは一旦脇に置いておく、その代わりに、別のカテゴリーから「建築」を拡張させる要素を引っ張ってくる、という意識である。歴史評論と設計意匠という目的は違えど、いずれも、建築自体への形式的な問い掛け(「80年代」的な)とは異なる点に時代的な共通性があるとは言えないだろうか。
 こうした「〜のような建築」というコンセプトの立て方は、複雑系科学の研究者池上高志が述べるところの「ストーリーテリング」による自然物・自然現象の理解と非常に近い(*3)。多様で複雑な事象を創作的な枠組みにおいて読み取るという、創作的な姿勢が、ここには見られる。



[fig.1] gallery S 出典:akihisa hirata architecture office HP 


2.「生命のような建築」を方法化する「ひだ」

それでは「生命のような建築」を検討していこう。今となっては「生命」とは、池上の言うように「情報」や「ルール」といった言葉と同義(もちろん自然物だって「生命」)であるから、「生命」とはこのとき「深層の秩序、原理」そのままとも言える。それゆえ「〜のような建築」が本来備えるはずの、メタフォアが生成する「余白」をほとんど期待できない。
 そこで「生命のような建築」を具体化する方法として、平田がここで持ち出すのが「ひだの原理」である。「ひだ」はそれだけで「バロック的な流動性」や「脳みそのしわのようなフラクタル図形」など様々なイメージを喚起させるが、平田は「限られた気積の中に最大の表面積をつくり出す原理」(*4)という意味で用いる。つまりこれが「〜のような建築」に不可欠の「深層における秩序」である。
 興味深いのは、平田にとって「ひだ」が単なる「原理」に留まっていないことである。東京という、敷地が小さくならざるを得ない環境において、人間の「やどりしろ」となる表面積を確保すること。単純に床を積層させる近代建築の論理−平田が述べるところの「床本位制」−へのアンチテーゼとすること。つまり、本来はロマン的に自然と建築を対比させて自身の心象風景を糧とする「〜のような建築」に、環境や歴史からの根拠をさらに充填しようとするのだ。
このことは、平田を「〜のような建築」の一般から異ならせる特徴である。たとえば平田と同じ1971年生まれの藤本壮介も、「〜のような建築」を特徴とする建築家の一人だが、彼が「〜」の内容を次々と変化させていくのとは対照的である(とはいえ藤本は、一方では作品レヴェルで強い一貫性を発露しており、この乖離もまた興味深い点ではある)。
 また藤本のそれがロマン的なイメージソースとして強化されているのに対し、平田のそれは下で触れるとおり、形態操作としてある程度具体的に方法化されている点も特殊と言えよう。






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