September 2010

藤本壮介「武蔵野美術大学図書館」以後 (1/2)

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武蔵野美術大学図書館 提供:藤本壮介建築設計事務所


藤本壮介氏の近作「武蔵野美術大学図書館」は、スケール、プログラムとも氏にとって最大級のプロジェクトであり、これまでの思考の集大成でもあると同時に、新しい展開を感じさせている。ここでは、「武蔵野美術大学図書館」前後の変化を中心に、藤本氏の思考の断面をお伺いすることにした。
聞き手=藤村龍至


渦巻きの経験

藤村 「武蔵野美術大学図書館」は、今までの藤本さんのボキャブラリーが集約されているような感じがありますね。例えばあのちょろっと出ている壁は、「T HOUSE」のガレージの感じがありますし、開口のつならりみたいなところは、「House N」の、廊下の二層吹き抜けになって、ブリッジしているのは、「情緒障害児短期療養施設」というように。反対に外装のガラスの感じというのは、独特の環境にいい意味で沈んだ感じで、すごく新鮮な感じがしましたが、藤本さんの中では、今回の作品の位置づけはいかがですか。

藤本 いろいろな意味で格闘せざるを得ないプロジェクトでした。プログラムの複雑さもそうだし、建物の規模もそうだし、あらゆることが今までとケタが違ったので、自分たちが考えてきたことが、より増幅して違う次元に行けるかっていうところはすごい考えましたね。

藤村 内部空間の吹き抜けになっているところは、どれくらいの高さがあるんですか。

藤本 9m弱くらいかな。

藤村 例えば「情緒障害児短期療養施設」の吹き抜けは、何メートルくらいですか。

藤本 5.5mくらいだったと思う。あれは小さめの吹き抜けだったから。

藤村 そのスケールに対しては、どういう戦略を持たれていたんですか。

藤本 戦略は特になかったですね(笑)。この図書館をやるにあたって、いろんな図書館を見に行ったんですよ。機会があるごとに。シアトルもいったし、ヨーロッパのいろんな図書館も見てまわったんだけど、大きなものがもっているスケールというのが建築にもたらす豊かさは確実にあるなって思って。今回、渦巻状につくった本棚のつくりが、単なる物理的な大きさを超えたものになってくれればなという思いはあったんですよね。


House N 提供:藤本壮介建築設計事務所


藤村 それはどのような感覚でしょう。

藤本 例えば「House N」も、3つの箱を入れ子にすることで、物理的な大きさを超えられるんじゃないか、と感じた。ベースのアイデアはそういう感じだったんですよね。この図書館では、結果的には、人間の体力を上回る複雑さが生まれてきた(笑)それは大きな成功だったと思いますね。いまだに全部歩きつくした感がないというか。それは単に広いということではなくて、常に向こうの向こうの向こうがあるという感覚。知覚と身体感覚がいつも裏切りあっていることが生み出す豊かさのようなものがある気がしました。

藤村 「渦巻」というコンセプトがあったのでその感覚が強いのかと思いきや、実際にはそれほど渦巻そのものの図式性についての経験は強くないと感じました。

藤本 僕らは図式の建築家だと思われて久しいと思うんですけど(笑)、図式自体を体験することにはあまり意味がないと思っています。今回も渦巻そのものを体験してもらおうとは考えてなかったんですね。むしろ、渦巻型に建築をつくることによって生まれる質みたいなものは豊かであろうと。真ん中に立った時の、ある種の放射状のジオメトリーは非常に明快で整理されている。だけど、穴がいっぱい開いている渦巻がつくる空間性というのは、確実にある種の迷宮性みたいなものを持ちうる。その両義性が場所の豊かさを作り出している。
あとは渦巻が持つ両義的なスケール感でしょうか。本棚の壁に挟まれているところはかなり守られた心地よいスケールになているのに対して、渦巻の動きの方向、そして開口の連なりによる「向こう」の感覚は、物理的な広さを超えた広がりを生み出す。その両方がまじりあっている。

藤村 渦巻の用い方には必然性のような、偶然性のようなところがあるんですね。

藤本 確かに渦巻じゃなくても実現できたのかもしれない。本棚がバラバラに置いてあっても良かったのかも知れないですけど、僕の好みとしては、「実はこの本棚は一つの本棚なんですよ」って言えると、うれしいなと思ったんですよね。

藤村 なるほど。物理的な経験に、意味の経験も重ねされているんですね。


ポストモダニズム再演!?

藤村 今回の「武蔵野美術大学図書館」と近作の「東京アパートメント」を見学させて頂いて、今までの他の作品に顕著な図式性に加えて、記号性が出てきていると思うんです。例えば、本棚や階段、家型が、いわゆる機能的に「使う」というためにつくられているというよりも、意味を失った記号として用いられているということです。アプローチとしては懐かしい感覚があって、私たちが建築を勉強始めたときにはまだ、磯崎新さんの「つくばセンタービル」にせよ、隈研吾さんの「M2」にせよ、意味を失った記号と戯れる、という操作が建築をつくっていた頃の余韻がありました。それを最近藤本さんが出してこられているのが、ある意味では新鮮ですし、多少疑問に思うところでもあります。ご自身ではいかがですか。

藤本 どうなんでしょうね。例えば、「SUMIKA PROJECT」の木なんかもそうですよね。木っていうのは、ただそこに木があって役に立つというのもそうだけれど、記号的に木をつかっている状態ですよね。内部と外部という概念もどちらかというと記号的に使っていますよね。ポストモダンと何が違うかっていうのが、僕は良く分からなくて、藤村くんが分析してくれた方がわかるとおもうんだけど(笑)。何かが違う気がしますね。

藤村 感覚的なところでは、これまでの作風と連続しているような気もするんですが。

藤本 たぶん、一つにはある種のわかりやすさでしょうね。世界にあふれている風景ってあるじゃないですか、良い風景もあったら、どうでもいい風景や印象に残るような風景もあると思うんですけど、自分たちが建築をつくった時に、そこからはじまる記憶に残る風景、未来の原風景のようなものをつくりたい。あるいは風景のつくり方みたいのを作りたいというのがあるんですね。例えば、「東京アパートメント」の場合は、家はどこにでもある風景だけれど、それが三次元的にも文字通り積み上げられている風景というのはなんだか馬鹿馬鹿しくて、印象に残るじゃないですか。そういうものとして考えていたと思います。四角くなったらあんまり意味がなくて、四角くした「SUMIKA PROJECT」は木があることで、未来の人工と自然が融合した森のような場所が生まれてくる。


東京アパートメント 提供:藤本壮介建築設計事務所


藤村 ポストモダニズムの頃のように偽悪的なところはなくて、そこは新しさを感じます。

藤本 「新しい」なにかって言う時に、意味も含めたところで何かを更新していくという作業は、ありだと思うんですよ。意味を新たにするみたいな。ポストモダンは単に意味をはぎとって持ってくることによって、生まれるシューレリアリズム的な面白さでしかなかったような気がしていて、そうでなくて、人間が住む場所のあり方をあぶりだすような形で意味が更新されれば、それは価値があるのではないかと。樹というものの意味を単に剥ぎとってゲームとして組み合わせるのではなく、人間の住むための場所という視点から、樹の意味を再定義するというのでしょうか。家形にしても、入れ子の窓にしても、そういう意味の再定義・再発見が行われているところが、一番の違いではないかと思います。だから意味というものをもっと大事にしている(笑)。それはポストモダンとは大きく違うところだと思いますね。おそらく、初期のプロジェクトである「Primitive Future House」の時点で、すでにさまざまな意味を再定義、再発見することがプロジェクトの根底にあったと思います。家具とは、床とは、建築とは、構造とは、ということを、人間の身体と生活という視点から、大胆に再定義していく。それが建築の発見の面白さだと思っているし、その延長で「建築」を再定義できれば、それは一番エキサイティングだと思います。
 ただ、この図書館を作るにあたっては、自分の中では今までの建築を構想するのと若干立ち位置が違った気がするんですよね。

藤村 それはどのような違いでしょうか。

藤本 建築として新しいものを作りたいというよりは、人々が図書館というものを思い浮かべたときに、まず頭に浮かぶ図書館建築、のようなものをつくりたいという思いが強かったんですよ。まだ見たことのない図書館の原風景のような。たとえば新しいコンセプトの建築のなかに本が置いてあれば、それは図書館になるけれど、それが図書館のマイルストーンになるかというと、それはわからない。図書館の歴史ってもうずっと昔からあるじゃないですか。その歴史の中に、何か新しいんだけど根源的なものをつくりたい、という思いがあったんですよね。そういうこともあって、本棚というのにこだわりたいなと思ったんですよね。

藤村 ポストモダニズムだと、記号のコラージュというのが浮かび上がっていただけなのに対して、図書館の究極の姿としての「本棚」に、身体的なレイヤーを重ねる、みたいな感じですか。

藤本 そうなっていると嬉しいですよね。身体、場所、本、情報、などの視点から、本棚とか図書館というものを、再定義していくこと。特にこの森のような情報の場所というイメージは、ある意味での現代的な、それでいて古代的な図書館の再定義の原型になっていると思います。


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