May 2010

藤村龍至「今こそ、アーカイヴの可能性について考える」

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RIBA(英国王立建築家協会)に保存されている図面 *1

本特集は、去る2010年2月21日に東京大学にて英国王立建築家協会イギリス建築図書館館長・イレーナ・ムレイ博士を迎えて行われたシンポジウム「建築アーカイヴの現在と未来」(主催:東京大学大学院工学系研究科建築学専攻)に端を発するものである。

建築アーカイヴの設置を巡っては、これまでも多くの議論がなされてきた。中心的なインスティテューションがリードしつつ建築資料を保存する仕組みは、イギリスやカナダを始めいくつかの国で実現しているが、わが国では今のところ実現していない。いくつかの大学が特定の作家の資料を集中的に保管しているというのが現状である。

こうした現状に対し槇文彦氏と保坂健二朗氏は、これらの大学ベースのアーカイブ群の間に共通のインデックスを整備することによって、新たなネットワーク型のアーカイヴを構築することを提案する。Googleからテキストや画像を検索するように、好きな資料を好きなように取り出す環境は、両氏が示唆するようにそれほど難しいことではないのかも知れない。

他方で南條史生氏は、ネットワーク型アーカイヴの可能性を認めつつも、円滑な運営の前提となるフォーマットの整備や著作権問題の解決を指摘するための上位の組織の必要性を指摘する。大学間のネットワークを行うために、学会等の専門機関がこれらの動きをリードするという可能性は十分に考えられる。

これらの議論とは別に、アーカイヴの技術的環境は、1990年代にデジタル化という大きな転換があり、トレーシングペーパーから図面データへ、収蔵庫からハードディスクへ、博物館からGoogleへと、モデルが書き換えられていった経緯がある。特に情報環境の浸透は、私たちの世界の記録のあり方を「有用な記録を選別し残す」構造から、「ありとあらゆる記録を残す」構造へと移行させつつあり、それに伴ってアーカイヴを利用するイメージも少しずつ変わってきたと言える。

ここでは、その変化のイメージを体現する徴候のひとつとして、森ビルが保有する「TOKYO MODEL」を挙げておきたい。都心部のあらゆる建物が1:1000で忠実に再現され、しかも実際の都市空間の動きにあわせて、定期的に更新されているという。都市のライフログのようなこの装置こそが、都市空間の将来像を描くための俯瞰的な視点と、空間的な刺激をもたらすことを教えてくれる。

また、アーカイヴが単なる記録装置に留まらず、デザインのツールであるということは、世界最大級の設計事務所Foster and Partnersが教えてくれている。同事務所では自社のアーカイヴを最大限利用することで、巨大な組織のクオリティ・コントロールを実現するばかりでなく、自己参照的にスタイルを発展させ設計事務所としてのアイデンティティを獲得することに成功している。

「過去を振り返るだけでなく、未来を獲得するものだ」というイレーナ・ムレイ博士の宣言は、単なるスローガンではもはやなく、現代を行き、近未来を予測するための具体的な方法論なのだ。

これらをアーカイヴをめぐる可能性の具体例として、ここに示したい。

藤村龍至/TEAM ROUNDABOUT


*1 左:Preliminary design for the Villa Pisani; Bagnolo, Italy ( Andrea Palladio (1508–80)) About 1539–40 RIBA Library Drawings Collection
中:Preliminary design for the dome; Greenwich, London ( Sir Christopher Wren (1632–1723) ) 1702 RIBA Library Drawings Collection
右:Design for the British Pavilion, Expo '67, Montreal ( Architect: Sir Basil Spence ) Copyright: RIBA Library Drawings Collection  出典:RIBA ( http://www.architecture.com/ )