May
2010
特集「アーカイブ2.0」
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井関武彦「アーカイヴに支えられる巨大設計組織」(1/2)


Swiss Re HQ, 30 St Mary Axe ( Foster + Partners / London, UK, -2004)
世界中でプロジェクトを展開し、800人のスタッフを抱える世界最大級の設計事務所Foster and Partnersは、アーカイヴの機能を最大限利用しているという。ここでは、同事務所に勤務する井関武彦氏に具体的なアーカイヴの活用方法や位置づけ、可能性などを討議した。
聞き手=藤村龍至
第1信:藤村>井関
1.まず、フォスター事務所のアーカイヴの現状から伺いたいと思います。設立当初からアーカイブをしているとのことですが、どのような問題意識でアーカイヴィングに取り組んでいるのでしょうか。
2.具体的にどのような形式で資料保存をされているのでしょうか。
3.フォスター事務所ではスタッフ数が大変多いと聞きます。チーム間の連携やクオリティのコントロールのために、資料の統一性や記録保存の必要性が出てくるのではないかと推察します。デザインプロセスとアーカイヴィングとの関連性についてどのような実践がなされているか、お聞かせ頂けますか。
*
第1信(返信):井関>藤村
1.フォスター事務所のアーカイヴの現状
2009年に設立40周年を迎え、事務所でも時間の蓄積とともにアーカイヴの重要性は増してきています。ただ、ノーマンは初期の段階からアーカイヴの重要性を認識しており、過去のプロジェクトに関する資料はその都度、整理して保管してきました。さらに、その多くは、現在はデジタル化され、所員が容易に目を通せるようになっています。彼が残してきたアーカイヴは、闇雲に保存するのではなく、どれも「次に引き継いでいく」という精神が感じられます。そして現在も、アーカイヴ作業はプロジェクト終了後に担当者が行う大切な役割となっています。
2.資料保存の方法
大きく言うと、プロジェクトの概要を示したドキュメント形式のものと、イメージ、そして模型に分かれます。PDFアーカイヴは一つのフォーマットをそろえるという意味で資料としての検索/閲覧には向いていると思いますが、「使う」という事を念頭に置くと単純な画像フォーマットの方が汎用性があると思います。
3.デザインプロセスとアーカイヴィングとの関連性について
現在当事務所の所員は約800人に上ります。プロジェクト数は通常120程度のものが同時進行し、スタッフは世界30カ国以上から集まり、プロジェクトは50カ国以上で行われてきました。しかしながらデザインプロセスは、ゼネコンでもなく、組織設計事務所でもなく巨大なアトリエとして機能しています。それは言うならばドアノブのディテールまでデザインするという事だと思います。
もちろんノーマンが目を通す事が出来るのはごく短時間に限られるため、それを補う意味でチーム間でのデザインの意思疎通に自社のアーカイヴ・ライブラリはとても大きな役割を果たしていると言えます。さらにアーカイヴのデジタル化によって、目的の資料にたどり着く時間は短縮され、場所に関わらず世界中からアクセスできるという利点は拡張されました。
自社のデザインをリファレンスする事によって、古いアイデアは受け継がれ、新しいデザインはより強度を持って世に出る事が出来るという事に繋がっているのだと思います。それは同時に、アトリエとしてデザインのアイデンティティを確保し、その質を保障するという基本的な課題に答える事にもなっているのではないでしょうか。
*
第2信:藤村>井関
おっしゃる通り、フォスター事務所は巨大なアトリエですね。しかしながら、「巨大なアトリエ」というのは、語義矛盾のようなところもあり、通常はクオリティのコントロールを行うためにモジュール化が進み、結果的に凡庸で鈍い建築になりかちです。
一般論としては、アトリエ事務所にはデザインのクオリティ・コントロールが利くが、規模に限界があり、組織事務所には規模に対応できる技術はあるが、デザインは凡庸になり、匿名的で非作家的な存在となるとされがちです。
例外的な存在として日建設計があり、フォスター事務所と近い規模ですが、固有名を持った「室長」が仕切る「設計室」が並列するという形式を採っており、「室長」がメディアに出てくることがあるという意味では「固有名を持った組織設計事務所」という特異な、語義矛盾的なポジションにあります。
このように「巨大なアトリエ」であるフォスター事務所と、「固有名の立つ日建設計」は対比的でありつつ語義矛盾という意味では共通点もある存在として比べられるものなのですが、日建設計の場合はよくも悪くも「室」ごとの個性を尊重していることが単一のアイデンティティに還元できるフォスター事務所に比べるとクオリティのコントロールやテイストの統一を阻んでいるようにも感じられ、フォスター事務所のほうがむしろ「組織事務所以上によく組織された設計組織」に見えます。
そのようなフォスター事務所のアイデンティティ形成の仕組みとして、設計資料のアーカイヴィングが機能しているのではないかという仮説を持っています。フォスター事務所の作品が極めて自己参照的に発展していることを考えると、フォスター事務所のアーカイヴィングは、単なるイギリス人のアーカイヴィング好きという程度を超えて、経営戦略として機能するような仕掛けになっているように見えます。
そのような文脈でアーカイヴ・ライブラリが実際にどのように機能しているのか興味があるのですが、具体的にその内容を教えて頂けないでしょうか。単なるプロジェクト毎の記録なのか、資料集成のように自社物件の事例が整理され、記録化されているのでしょうか。
また、そのようなある種の作業の効率化がルーティンに陥らずにクリエイティビティに結びついているのは、どのような仕掛けによるものだと考えていらっしゃいますか。
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