August
2010
特集:アートとしての生命
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稲葉大明 「マンガのなかの生命」(1/3)


手塚治虫氏の生命性をテーマとしたマンガ
第1信:松島>稲葉
今回、mashcomixで現代表現を模索するマンガ「作者」であり、且つヘビーな週刊マンガ「読者」でもある稲葉さんに、生命をテーマにしたマンガ、そして何か「生命性」と言うべきものを感じるマンガに注目しながら、マンガ表現の現在についてお聞きするとともに、いまマンガ界で「生命」というテーマに対してどのような意識が芽生えているのかについて議論させていただきたいと思います。
生命をテーマにしたマンガと言えば、何と言っても手塚治虫氏の一連の著作が挙げられると思います。『火の鳥』では輪廻転生をベースとして宗教と政治のなかで揺れる生命を描き、『ブラックジャック』では医師の倫理と社会における生命の問題を描き、そして未完の絶作である『ネオ・ファウスト』では人工生命体:「ホムンクルス」を作ることを目的とした男の生涯を描こうとしています。
一方、近作で私が思い浮かべると、電脳化の先で人間存在のありかを問う士郎正宗:『攻殻機動隊』、人造人間譚エンターテイメントのPEACH-PIT:『ローゼンメイデン』、新生物と人間の熾烈な生存競争を描く冨樫義博:『HUNTER X HUNTER』キメラアント編、医師倫理へ直球勝負する佐藤秀峰:『新ブラックジャックによろしく』、寿命を持たない超生命体が眺める歴史ドラマ、山下和美:『不思議な少年』、といったマンガにいわゆる生き死にのヒューマンドラマを超えたところにある「生命性」が意識されていると感じています。
まず最初に稲葉さんが「生命性」という観点から思い浮かべるマンガを挙げていただき、表現や傾向等について感じていることをお聞かせ下さい。
第1信 (返信):稲葉>松島
「生命」というテーマでマンガを考えたことはなかったのですが、興味深い内容です。個人的ではありますが、僕なりの視点でマンガと「生命性」について考えたいと思います。
「生命性」というテーマで思い浮かべるマンガですが、すごくいいところを松島さんがいきなり挙げられているので僕は、むかしからリアルタイムで読んでいたマンガのなかで思い浮かべてみました。
まず、一番印象的に記憶しているのは岩明均:『寄生獣』です。人類という、現在の自然界の食物連鎖の頂点にいる我々を主食とする生物が突如世界中に現れる。その謎の生物達は人間の身体に寄生する形でしか生存できず、またある部分では人類よりも優れた知能をもつ彼らは人類を捕食する意味、自分たちの生物的なアイデンティティを模索していきます。まさに種としての生命性をテーマとしていたマンガではないでしょうか。彼らを通して人間をみることで、我々の生命や本能の意味を描き出そうとした傑作だと思います。
松島さんも『攻殻機動隊』を挙げており少し似ているかもしれませんが、木城ゆきと:『銃夢』を挙げたいと思います。この作品はむしろ今、考察するのが面白いマンガではないでしょうか。地上の人類は脳以外をすべてサイボーグに替えなければ生きていけない未来。一方、その世界を統治する空中楽園都市ザレムに住む人々は健康的な身体ではあるが脳型チップという自身も知らない秘密を持つ。
脳型チップが人間の脳と同じ機能をはたすまで科学が発達した時、脳しか生身でない人間、脳だけコンピュータ化された人間、どちらがより人間的なのか。現代のコンピュータの劇的な発達を目の当たりにすると、とても興味深いテーマです。
また、ちょっと視点をかえて、マンガ表現のなかで「生命」の扱いで印象的だった作品。ご存知、鳥山明:『ドラゴンボール』です。内容はほとんどの人が記憶していると思いますが、僕が他のマンガにはない生命の扱いかただと思ったのは、「神龍」に願えば一度死んだキャラクターを生き返らせることが出来るという事です。もちろん一年以内などの細かいルールはありますが。最終的には地球上の人類が一度死ぬが、全員を生き返らせてハッピーエンドにする、という荒技まで登場します。
人造人間編では、主人公孫悟空が死んでしまう未来を変える為に、トランクスという少年が未来からやってきます。しかし、ストーリーはパラレルワールドになるので自分の未来(彼にとっては現代)の主人公は死んでいる事実は変わりません。彼はマンガの主軸ストーリーの主人公を生かすためだけにやってきたようなものです。『ドラゴンボール』の、このマンガ表現の中でのルール設定、そのなかであれば生命もゲーム的に扱えるという手法は、後のマンガ(主にジャンプマンガ)に大きな影響を与えたと思います。
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