March
2010
特集「アーキテクト・アーティスト」
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杉本博司「あえて伝統的手法からみる」前編 (1/2)


聞き手=藤村龍至
杉本博司氏は現代美術作家として活動すると同時に「護王神社」「IZU PHOTO MUSEUM」「小田原文化財団」など、建築作品も発表していることで知られる。写真では銀塩写真、建築では伝統的工法というように、近代化以前の技術を用いて可能性を追求する方法論も一貫している。そこで今回は、表現における観念と方法の関係、技術や社会との関係、伝統的工法にこだわる理由などを伺い、アートと建築の関係から両者の可能性を考察したいと考えた。(藤村龍至)
写真という「方法」
藤村:まず写真の話から伺いたいのですが、杉本さんが度々言及されているように、写真というメディアの最大の発明は「時間を止めること」です。ただ他方で杉本さんは同時に「I am not hunter」とおっしゃられています。通常の写真家は決定的瞬間を捕えるのに対して、杉本さんの作品は、「ジオラマ」シリーズにせよ、「建築」シリーズにせよ、あるいは最近の「放電場」シリーズにせよ、それぞれのシリーズごとに「方法」を明快にお立てになっている。そういう方法的な表現をされるようになったのはなぜでしょう。
杉本:写真家になろうという意思は2番目にきています。まず現代美術のなかで活動しようと考えて、メディアを選ぶにあたっって、彫刻や絵画は何万年も続いてきたので、写真かな、と考えたわけです。完全に開発されていないメディアの特性があるのではないかと思ったんですね。
写真というのは「時間」と関わってくるメディアなので、「瞬間」ではなくてもっと長いスパンで捕えようと考えました。決定的瞬間というのはモリを持って魚を捕えるイメージなのかもしれないけれど、僕の場合は漁師が定置網を仕掛けるような、違うスパンでの時間の表現を試みています。

藤村:杉本さんの作品のなかで、観念と方法はどう関係しているのでしょう。
杉本:1970年代からコンセプチュアル・アートが大きく出て来ましたね。本当に観念だけでビジュアルというのは観念の派生物という感じでしたよね。建築の運動でもアンビルド作家というのは、たくさんいたわけです。その人達は実際に建築思想みたいなものから派生して、こんなもの作れるはずがないというようなものをつくる。こういう人達がコンピュータ技術の進歩によって、もともとできないものができるようになってしまったというのが現代の不幸ですよね。
僕の場合は観念芸術ともちょっと違う。どちらかというとイメージが頭の中に見えていて、それを作るのが先行して決まっている訳ですよ。そこでなんで自分がそんなことしたいのかという疑問に対して裏を取るために理論を立てる。そして職人的な手仕事で実際に作業することによって、自分を説得させているわけです。イメージと作業が相互に補完しながら支えあっている。
デジタル時代の写真表現
藤村:イメージと身体感覚のあいだに相互作用があるという視点は興味深いです。他方、都市に対してコンテクストをどう読むかというときに、かつて人間の目で見ていたときには見えなかったけれども、様々な解析技術を使うと見えて来るものもあります。デジタルカメラやPhotoshopも含めて、新しい技術に対してはどのように捉えていらっしゃいますか。
杉本:デジタル写真と銀塩写真というのは全く違うメディアなんですよね。写真が絵の様になってしまった。絵は恣意的に描くわけです。青い花でも赤く塗っちゃえば赤い花になるというものですね。それと全く同じことが、デジタル写真にはできるわけなんですよね。建築も同じで、コンピューターで得られた像とそれを実現化する技術でつくられる。でも、人間の感性がまだついていっていないのか、人造人間やアンドロイドみたいな気持ち悪いものができてしまう。技術だけに決定権を任せてつくられていく形態には、はたして美はあるのかということになる。

例えばザハ・ハディドはアンビルド作家だったんですけれども、「ヴィトラ」で初めて消防署ができたときに、図面とドローイングでは凄く過激に見えたものが実際に形にしてみると、なんだよってかんじでしたよね。ところが最近のものはコンピューターでグニョグニョした曲線とか、もの凄い形がはっきりできるようになってきましたね。でも僕はそれを見てすごいなとか綺麗だなとはまだ思えないんです。
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