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BOOK REVIEW:連勇太朗による『ボランティア もうひとつの情報社会』の書評
今回は、慶應義塾大学SFCの連勇太朗による書評をお送りしたい。連は「アーキコモンズ」という設計論を通じて、「理論と実践」などという分節を丸飲みする勢いで実作に取り組んでいる。彼独特の公共観の背景を読み解く手がかりになりそうだ。http://yren.jugem.jp/
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書評:『ボランティア もうひとつの情報社会』(金子郁容著、岩波新書、1992)
評者:連勇太朗(慶應義塾大学4年生)

「なんだ、ボランティアについてか…。」と少しでも思ってしまった、そこのあなた!
食わず嫌いほど、もったいないことはない。手垢に塗れた「ボランティア」という言葉から想像してしまうステレオタイプはたくさんあるだろう。しかし、本書はネットワークという視点から新たな「ボランティア」像を提示し、私たちが抱いている固定概念の変更を迫る。その先には「もうひとつの情報社会」が示す、豊かな思考の地平が待っている。
/////ボランティア=ネットワーカー?
金子郁容『ボランティア もうひとつの情報社会』はボランティアを「ネットワーカー」として定義している。一般的には「人のため」「慈善事業」といったイメージの強いボランティアであるが、金子氏は関係性の形成という観点から「つながりをつけるプロセス」を体現している主体のことをボランティアと考える。どういうことか。以下、簡単に説明してみよう。
本書の前半はボランティアの事例紹介から始まり、近代の社会構造を、アダム・スミス、カール・マルクス、マックス・ヴェーバーを参照しながら明らかにしていく。著者は、様々な巨大システム(金融、産業、行政・官僚など)が現代社会を管理・運営しており、このようなシステムには間接的な方法でしか個人が運営に関与することができないとして、社会全体の「閉塞感」を指摘する。巨大システムに依存し支配されている状況下において、個人は実感の伴わない間接的関係・従属関係しか構築することができない。ネットワーカーとしての「ボランティア」の行動原理は、新しい価値を生産し、近現代社会の「閉塞感」を打破していくための「窓」として位置づけられるのである。
後半からは、このようなボランティアの具体的な行動原理が論じられ、新たな社会像の可能性が示唆される。著者は便宜的に情報を「動的情報」と「静的情報」に整理し、「動的情報」を発生させるプロセスとして「ネットワーク」に注目する。「静的情報」とは、対価を払うなどのコストをかけ、手に入れるものである。そのため情報を独占することが重要であり、情報をより多く保持していることが優位となる。それに対して、情報の積極的な開示によって有効的なフィードバックループを作り出し、やりとりを交わす過程で新しい価値や発見が付加されていくのが「動的情報」である。「動的情報」は世の中の既存の枠組みを動かし、新たな秩序を作り出していく上で重要な視点である。ネットワーカーとしてのボランティアは「動的情報」を常に生み出していく主体として注目されるのだ。しかし、「動的情報」は常に「バルネラビリティ」と隣り合わせである。「もうひとつの情報社会」とは「動的情報」の持つ「弱さの強さ」を柔軟に受け止めるシステムを持った社会のことである。本書において著者は、「もうひとつの情報社会」の具体的なメカニズムや全体像を提示するまでには至っていない。しかし、私たちは自分たちでそのような社会像を考え始めることが出来るだけの十分なヒントを本書から得ることができる。
著者は筆者が在籍する慶應大学SFCの教授であり、情報論、ネットワーク論を専門としている。そのような点からも、本書が単純なボランティア=慈善家という構図を越えた広い視点で書かれていることが理解できるだろう。出版当時はインターネットが一般的に普及する前の1992年である。その当時から、予兆として社会に現れる様々な現象から「ネットワーク」をキーワードにある種の「人間像/社会像」を本書が提示していることに、筆者は新鮮な驚きを感じる。
/////アーキコモンズという発想
筆者が独自に提案している「アーキコモンズ」という概念は、本書がひとつの出発点になっている。「アーキコモンズ」は「建築における関係主体間の共有構造」である。2月6日にINAX:GINZAで行われたLIVE ROUNDABOUT JOURNAL 2010で発表させていただいた。ネットに動画がアップされているので、詳しい内容はそちらをご覧いただきたい。
筆者の関心は、建築における「アウトカム(社会的成果)」をいかに実現していくかということにある。このことは、必然的に「アウトプット(空間の構築)」を主眼としてきた従来の建築設計の方法論や評価軸とは異なる指標を必要とする。
筆者は大学で建築設計の勉強と並行して、公共政策やソーシャルマーケティングを専門とする研究会に所属していた。そこでNPM(New Public Management)におけるアウトカム/アウトプットの考え方に出会い、「恊働」や「共有」を基盤とした行政サービスの評価システムの構築方法について学んできた。この領域における様々な概念/方法論が建築設計に応用できると考えたことが「アーキコモンズ」の構想につながった。『ボランティア』はこのような文脈で出会った本である。以下、『ボランティア』を通して「アーキコモンズ」の内包する問題意識と方法論としての可能性を説明してみたい。
/////建築設計=コミュニケーションプロセス?
「つながりをつけるプロセス」は情報を発生させるプロセスであると金子氏は定義する。このような文脈から、例えば建築におけるコンテクストや与件が決して固定的/静的なものではなく、ある特定の主体間/環境間における「関係性」において動的に生産されていく変数であると考えることできる。筆者の提案している「アーキコモンズ」は関係主体間でコミュニケーションプロセスを連鎖させていくことで、空間のアウトプット(変容/構築)に影響を与えるものである。関係形成の過程を通して立ち現れるコンテクストやデザインパターンをツールとして建築的アウトプットを実現していくのだ。コミュニケーションの効果的な連鎖をウェブやワークショップなどの「ツール」を用いて「設計」していくことで、一般的な建築設計が方法論のレベルで建築物単体しか生み出せないのに対して、「アーキコモンズ」はその背後に「ネットワーク」を形成することが可能である。背後のネットワークが建築物の「アウトカム」を実現する上で重要な役割を果たす。また、必然的に「設計者/作り手」もネットワーカーとして、ネットワークの一部/内部として「動く」ことが求められることは強調したい。

ワークショップ
/////「関係性」を扱うことの困難
筆者は常にものを作り出していくことに肯定的でありたい。しかし、あらゆる価値観を相対化してしまう社会や時代の中では、モノ造りにおける「定点」を見いだすことは困難である。ウェブインフラが発達し、コミュニケーションの様態が大きく変化/多様化している現代の時代状況において、物事の背後に潜む「関係性」をいかに扱っていくかということが、建築家だけでなく「作り手」にとって重要なのではないだろうか。筆者は、関係性を扱わない限り「もの造り」における「定点」は設定することが出来ないと考えている。
『ボランティア』は大きな方向性を示してくれてはいるが、しかし、関係性だけではモノを生み出すことはできない。そこからどのように物理的アウトプットを生み出していくか考えなければいけない。現在、「アーキコモンズ」は白馬村での民宿のプロジェクトや、木造賃貸アパートなどのプロジェクトを通して、関係性から建築物を生み出す方法を様々に実験しながら、模索している段階である。
筆者は「アーキコモンズ」によって、従来の建築設計が取りこぼしてきた領域を扱おうと考えている。それは「もうひとつの情報社会」と言い換えることが出来るかもしれない。ネットワーカーとしての設計者は構想可能だろうか。

珪藻土塗りワークショップ
/////関連図書
『ボランティア』の7年後の1999年、『コミュニティ・ソリューション』という本が金子氏によって出版された。この本は『ボランティア』で提示している様々なアイディアが、リナックスの開発などを例に社会において、どのように現象化しているかということをまとめている。また、「コモンズ」という概念も具体的に提示されており、アーキコモンズの理論的部分で参照した部分も多い。
「社会関係資本」という言葉を生み出したR・パットナムの『哲学する民主主義』という本がある。非常に有名な書物であるが、建築やアートが専門の方にとっては馴染みがないかもしれないので、関連図書として、興味があればぜひ読んでいただきたい。(了)

むらじ・ゆうたろう|
1987年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部(小林博人研究会)在籍。2010年度より同大学政策メディア研究科修士課程に進学予定。民宿や木賃アパートのプロジェクトを通して、「アーキコモンズ」を研究中。ブログ:http://yren.jugem.jp/
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書評:『ボランティア もうひとつの情報社会』(金子郁容著、岩波新書、1992)
評者:連勇太朗(慶應義塾大学4年生)

「なんだ、ボランティアについてか…。」と少しでも思ってしまった、そこのあなた!
食わず嫌いほど、もったいないことはない。手垢に塗れた「ボランティア」という言葉から想像してしまうステレオタイプはたくさんあるだろう。しかし、本書はネットワークという視点から新たな「ボランティア」像を提示し、私たちが抱いている固定概念の変更を迫る。その先には「もうひとつの情報社会」が示す、豊かな思考の地平が待っている。
/////ボランティア=ネットワーカー?
金子郁容『ボランティア もうひとつの情報社会』はボランティアを「ネットワーカー」として定義している。一般的には「人のため」「慈善事業」といったイメージの強いボランティアであるが、金子氏は関係性の形成という観点から「つながりをつけるプロセス」を体現している主体のことをボランティアと考える。どういうことか。以下、簡単に説明してみよう。
本書の前半はボランティアの事例紹介から始まり、近代の社会構造を、アダム・スミス、カール・マルクス、マックス・ヴェーバーを参照しながら明らかにしていく。著者は、様々な巨大システム(金融、産業、行政・官僚など)が現代社会を管理・運営しており、このようなシステムには間接的な方法でしか個人が運営に関与することができないとして、社会全体の「閉塞感」を指摘する。巨大システムに依存し支配されている状況下において、個人は実感の伴わない間接的関係・従属関係しか構築することができない。ネットワーカーとしての「ボランティア」の行動原理は、新しい価値を生産し、近現代社会の「閉塞感」を打破していくための「窓」として位置づけられるのである。
後半からは、このようなボランティアの具体的な行動原理が論じられ、新たな社会像の可能性が示唆される。著者は便宜的に情報を「動的情報」と「静的情報」に整理し、「動的情報」を発生させるプロセスとして「ネットワーク」に注目する。「静的情報」とは、対価を払うなどのコストをかけ、手に入れるものである。そのため情報を独占することが重要であり、情報をより多く保持していることが優位となる。それに対して、情報の積極的な開示によって有効的なフィードバックループを作り出し、やりとりを交わす過程で新しい価値や発見が付加されていくのが「動的情報」である。「動的情報」は世の中の既存の枠組みを動かし、新たな秩序を作り出していく上で重要な視点である。ネットワーカーとしてのボランティアは「動的情報」を常に生み出していく主体として注目されるのだ。しかし、「動的情報」は常に「バルネラビリティ」と隣り合わせである。「もうひとつの情報社会」とは「動的情報」の持つ「弱さの強さ」を柔軟に受け止めるシステムを持った社会のことである。本書において著者は、「もうひとつの情報社会」の具体的なメカニズムや全体像を提示するまでには至っていない。しかし、私たちは自分たちでそのような社会像を考え始めることが出来るだけの十分なヒントを本書から得ることができる。
著者は筆者が在籍する慶應大学SFCの教授であり、情報論、ネットワーク論を専門としている。そのような点からも、本書が単純なボランティア=慈善家という構図を越えた広い視点で書かれていることが理解できるだろう。出版当時はインターネットが一般的に普及する前の1992年である。その当時から、予兆として社会に現れる様々な現象から「ネットワーク」をキーワードにある種の「人間像/社会像」を本書が提示していることに、筆者は新鮮な驚きを感じる。
/////アーキコモンズという発想
筆者が独自に提案している「アーキコモンズ」という概念は、本書がひとつの出発点になっている。「アーキコモンズ」は「建築における関係主体間の共有構造」である。2月6日にINAX:GINZAで行われたLIVE ROUNDABOUT JOURNAL 2010で発表させていただいた。ネットに動画がアップされているので、詳しい内容はそちらをご覧いただきたい。
筆者の関心は、建築における「アウトカム(社会的成果)」をいかに実現していくかということにある。このことは、必然的に「アウトプット(空間の構築)」を主眼としてきた従来の建築設計の方法論や評価軸とは異なる指標を必要とする。
筆者は大学で建築設計の勉強と並行して、公共政策やソーシャルマーケティングを専門とする研究会に所属していた。そこでNPM(New Public Management)におけるアウトカム/アウトプットの考え方に出会い、「恊働」や「共有」を基盤とした行政サービスの評価システムの構築方法について学んできた。この領域における様々な概念/方法論が建築設計に応用できると考えたことが「アーキコモンズ」の構想につながった。『ボランティア』はこのような文脈で出会った本である。以下、『ボランティア』を通して「アーキコモンズ」の内包する問題意識と方法論としての可能性を説明してみたい。
/////建築設計=コミュニケーションプロセス?
「つながりをつけるプロセス」は情報を発生させるプロセスであると金子氏は定義する。このような文脈から、例えば建築におけるコンテクストや与件が決して固定的/静的なものではなく、ある特定の主体間/環境間における「関係性」において動的に生産されていく変数であると考えることできる。筆者の提案している「アーキコモンズ」は関係主体間でコミュニケーションプロセスを連鎖させていくことで、空間のアウトプット(変容/構築)に影響を与えるものである。関係形成の過程を通して立ち現れるコンテクストやデザインパターンをツールとして建築的アウトプットを実現していくのだ。コミュニケーションの効果的な連鎖をウェブやワークショップなどの「ツール」を用いて「設計」していくことで、一般的な建築設計が方法論のレベルで建築物単体しか生み出せないのに対して、「アーキコモンズ」はその背後に「ネットワーク」を形成することが可能である。背後のネットワークが建築物の「アウトカム」を実現する上で重要な役割を果たす。また、必然的に「設計者/作り手」もネットワーカーとして、ネットワークの一部/内部として「動く」ことが求められることは強調したい。

ワークショップ
/////「関係性」を扱うことの困難
筆者は常にものを作り出していくことに肯定的でありたい。しかし、あらゆる価値観を相対化してしまう社会や時代の中では、モノ造りにおける「定点」を見いだすことは困難である。ウェブインフラが発達し、コミュニケーションの様態が大きく変化/多様化している現代の時代状況において、物事の背後に潜む「関係性」をいかに扱っていくかということが、建築家だけでなく「作り手」にとって重要なのではないだろうか。筆者は、関係性を扱わない限り「もの造り」における「定点」は設定することが出来ないと考えている。
『ボランティア』は大きな方向性を示してくれてはいるが、しかし、関係性だけではモノを生み出すことはできない。そこからどのように物理的アウトプットを生み出していくか考えなければいけない。現在、「アーキコモンズ」は白馬村での民宿のプロジェクトや、木造賃貸アパートなどのプロジェクトを通して、関係性から建築物を生み出す方法を様々に実験しながら、模索している段階である。
筆者は「アーキコモンズ」によって、従来の建築設計が取りこぼしてきた領域を扱おうと考えている。それは「もうひとつの情報社会」と言い換えることが出来るかもしれない。ネットワーカーとしての設計者は構想可能だろうか。

珪藻土塗りワークショップ
/////関連図書
『ボランティア』の7年後の1999年、『コミュニティ・ソリューション』という本が金子氏によって出版された。この本は『ボランティア』で提示している様々なアイディアが、リナックスの開発などを例に社会において、どのように現象化しているかということをまとめている。また、「コモンズ」という概念も具体的に提示されており、アーキコモンズの理論的部分で参照した部分も多い。
「社会関係資本」という言葉を生み出したR・パットナムの『哲学する民主主義』という本がある。非常に有名な書物であるが、建築やアートが専門の方にとっては馴染みがないかもしれないので、関連図書として、興味があればぜひ読んでいただきたい。(了)

むらじ・ゆうたろう|
1987年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部(小林博人研究会)在籍。2010年度より同大学政策メディア研究科修士課程に進学予定。民宿や木賃アパートのプロジェクトを通して、「アーキコモンズ」を研究中。ブログ:http://yren.jugem.jp/
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